5年くらい前、仕事先で一緒だった先輩派遣さん(アラフォー)は、ズケズケものを言う人でした。
私もかなりハッキリものを言う人間ですが、その私でもビックリするくらい。
ある日、そんな彼女と雑談していた時のこと。
お互いの親の話になって、彼女はお母さんととても仲が良いらしいことが分かりました。
「たこちゃんのお家はどうなの?」
と訊かれ、
「あー、なんて言うか、ウチの母親は人間として未熟なところがあって・・・」
と答えたところ・・・。
エライ怒られました(^^;
「親に対して言う言葉じゃない!」そうです。
うん、儒教道徳的にはそうかも知れないんだけど、世の中にはそれじゃ済まない人種ってのがいてね・・・。
上司も出張でおらず、仕事も暇な日だったので、話して聞かせて差し上げました。
私の父は50代の初めに脊椎を損傷し、下半身不随となりました。
両親とも古い人間ですので、ヘルパーさんなど他人の力を借りることは頭になく、当たり前のように自宅で母が介護することになりました。
家の中は車椅子で動けるようにリフォームし、玄関の段差には昇降機を、庭から1階の父の寝室の掃き出し窓へはスロープを付けました。
それらから出入りする時に、車椅子のタイヤを全く拭かないことに、私は正直「ゲッ(^^;」と思っていました。
拭くと言っても父は自分ではスムースに出来ないので、母の仕事になります。
母は、自分の苦手なことや、やりたくないことは、へらへらっと笑って「こんなの平気よねえ~?」で済ませる人です。
たとえ父がタイヤを拭きたかったとしても、母に全面的に介護してもらっている身ですから言えなかったでしょう。
まあ、父の建てた家だし、私の部屋に入ってくるわけじゃないので、目をつぶっていました。
私の姉は1回目の離婚後、1人暮らしをしていましたが、10年くらいたった頃に再婚が決まり、両家の家族だけで小さな式を挙げることになりました。
場所は、実家から少し離れた街にある神社。
ネットで調べたところ、参道は砂利道のようです。
私は母に言いました。
「拝殿に入るなら、建物の中を通るでしょう?ああいうところって赤い絨毯とか敷き詰めてあるから、汚れないようにタイヤを拭く雑巾を準備していった方が良いよね。段差もあるかも知れないから、板も用意して行く?」
それを聞いて、母が鬼の形相で言った言葉・・・。
「そんな準備はしなくて良いの!アンタはお父さんの車椅子がそんなに汚いって言うの!?」
いや、精神的には汚くなくても、物理的に汚いよ。
自分の家ならともかく、他所様のところへ上がらせていただくわけだし・・・。
「そんなものは必要ないの!何なの?アンタはそんなにお父さんを可哀想な存在にしたいの!?」
アカン(´д`)・・。
それ以上会話を続ける気力もなく、私はそこで話を切り上げました。
挙式当日、参道の深い砂利に沈んで車椅子のタイヤは全く回転せず、女手だけで動かせるはずもなく、新郎とその父親が引きずって進むしかありませんでした。
拝殿への出入りの段差は、同じく新郎とその父親が根性で車椅子を持ち上げ、そして廊下の赤い絨毯には、白い2本のタイヤの跡がくっきりと刻まれました。
私は神社にも、義兄家族にも申し訳なくて仕方ありませんでしたが、おめでたい日に現場で母の落ち度を指摘してまた言い争いになるのは嫌だったので、口をつぐむしかありませんでした。
母だけが終始、へらへらと笑っていました。
それから私は実家を出て、3年弱のアパート暮らしの後、新築マンションを購入しました。
両親は住宅取得資金贈与として、200万円くれました。
財産分与的に、姉の1回目の派手な結婚式と公平にするため、とか何とか。
本当は遠慮したかったのだけど、ありがたく頂いておきました。
「いらない」と言えばまた、「生意気だ」とか「可愛げがない」とか「性格が悪い」と来るのは分かっていましたから。
引っ越してしばらくすると父が、私がどんなところで生活しているのか見たいと言って、遊びに来ることになりました。
偶然ですが、ウチのマンションは外の共用部分も、部屋の中も段差のない完全バリアフリー。
車椅子でも何の心配もいりません。
両親が玄関に到着し、私が準備していた雑巾を手に近づいていくと・・・。
「いやっ!アンタそんなことするの!?」
母の金切り声。
「そんなのは必要ないの!お父さんの車椅子は汚くなんてないの!このままでいいの!」
いや今回、それを決めるのは、家主である私です!
喉まで出かかった言葉を、私は飲み込みました。
ここで言い争いになったら、母はまた言うでしょう。
「アンタはそんなにお父さんを可哀想な存在にしたいの!?」
さすがにそれだけは、父本人に聞かせてはいけない。
父とて好きで病気になったわけじゃないんだから・・・。
私の最後の良心でした。
他人の家、しかも新築物件に、土足で上がる。
何であの人たちが、実の親なんだろう・・・。
二人が帰った後、私は泣きながら、父の車椅子が通った場所の床を雑巾がけしました。
全部を聞き終えて、先輩派遣さんはポツリと言いました。
お父さんをいちばん可哀想な存在にしているのは、お母さんですよね(・・)?
先輩、さすがですm(_ _)m
読んで下さってありがとうございます。