「僕と一緒にソ連に行きませんか?」
そう言われた、あれは確か小学校5年生の夏。
それがどういうカリキュラムだったのかは覚えていないけれど、隣のクラスに来ていた教育実習の先生の「戦争について考える」的な授業を受けました。
戦争を題材にした物語を読んだか、それともTV番組を視聴したか。
とにかくそれについて皆で話し合い、最後に感想を述べるような流れだったと思います。
一人ずつ順番に「戦争は怖い」「戦争なんてしちゃいけない」と、クラスメートが発言して行き、最後、私の番になりました。
日本では終戦記念日近くになると、戦争を題材にした特別ドラマがよくTVで放送されます。
私が子供の頃は「はだしのゲン」「ガラスのうさぎ」、少し前には「さとうきび畑の唄」とか話題になりました(放送は9月だったようですが)。
映画「火垂るの墓」は今や定番ですね。
けれど私の育った家庭では、子供たちがそういった番組を観ていると、父親が必ずこう言ったのです。
「フッ・・・お前らには分からんだろうなぁ~!」
子供たちの顔をのぞき込んで、ニヤニヤ笑いながら、お酒臭い息で。
私はそれが心底イヤでした。
順番が回ってきて、私は椅子から立ち上がって言いました。
「こうして戦争について勉強することは大切だと思います。けれど大人の中には戦争の話をする時、子供たちに『お前らには分からんだろうなぁ』と馬鹿にしたように言う人がいます。でもその人だって、自分で望んで、努力して戦争を体験したわけじゃありません。偶然その時代に生まれていただけです。だから偶然生まれていなかった私たちを馬鹿にするのは、やめて欲しいと思います」
今から思うと、こういった授業のありがちな着地点とか、他の生徒たちの発言とか、それらに全く迎合せず自分の言いたいことをハッキリ言うあたり、いかにも自分らしいなぁと苦笑いです。
クラスメートがどんな反応だったかは、覚えていません。
授業が終わって、教室移動のために廊下を歩いていると、さっきの授業の先生に呼び止められました。
「君、来月、僕と一緒にソ連に行きませんか?」
研修か、合宿か、勉強会のようなものだったか。
とにかく彼はソ連に行くのだと言っていました。
政治思想なのか宗教なのか分かりませんが、私にピンと来るものがあったらしいです。
今の若い人にとって「ソビエト連邦」とは、どんな響きの言葉でしょうか。
ロシアの、昔の国名でしょうか?
けれど私が子供の頃は東西冷戦のまっただ中。
「ソ連」という名前は単なる国の名前では無く、かなり怖い、背景に色濃く政治思想のある言葉でした。
自分がどのように答えたかは覚えていませんが、とにかくキッパリお断りしたと思います。
先生も、しつこくはしませんでした。
(大体から教育実習の場で、小学生にそういう勧誘をするなんてNGですよね)
けれどあの時、もしも・・・。
もしも私が、首を縦に振っていたら・・・?
寝て起きて、働いて、食べて。何事も無い平凡な日常こそが幸せと感謝して・・・。
自分の人生に後悔は無いけれど、たまにふっと虚しくなってしまう時、あの時の誘いの言葉を思い出します。
「僕と一緒にソ連に行きませんか?」
良いか悪いかは別として、今とは全く別の人生になったことだけは、間違いありません。
もしも今、自分の人生を変えてくれるような、そんな言葉で誘う人がいたら・・・?
私は「いなむとぞ思ふ・・・」と、答えてみるかも知れません。
※今、戦争をやっているロシアは嫌です。
※特に何かに誘われているわけではありませんので、ご安心下さい(^^;
読んで下さってありがとうございます。